一匹の小さな茶トラの女の子が家族になるまで
保護猫を迎える日。
それは猫にとっても、人にとっても人生が変わる日なのかもしれません。
私は最初から猫を飼いたいと思っていたわけではありませんでした。
動物と暮らした経験もありません。
猫の気持ちも分かりませんでした。
だから、まさか自分が猫と暮らす人生になるなんて思ってもいませんでした。
そんな私の人生を変えたのは、一匹の小さな茶トラの女の子でした。
駐車場で出会った小さな子猫
最初にその子を見かけたのは、家の近くの駐車場でした。
まだ3か月ほどの小さな茶トラの女の子。
小さな体で一生懸命歩いていました。
その姿を見た時、
「かわいいな」
と思いました。
でも同時に怖さもありました。
私は動物を飼ったことがありませんでした。
近づいていいのかも分からない。
触っていいのかも分からない。
だから最初は遠くから見ているだけでした。
でも、その子を見かけるたびに気になるようになりました。
今日は元気かな。
ちゃんとご飯は食べられているかな。
どこで寝ているんだろう。
そんなことを考えるようになっていました。
今思えば、その時から少しずつ家族になる準備が始まっていたのかもしれません。

少しずつ縮まった距離
何度も顔を合わせるうちに、少しずつ距離が縮まっていきました。
最初は遠くから見ているだけだった私。
最初は警戒していた茶トラの子猫。
お互いに少しずつ。
本当に少しずつです。
そしてある日、初めて撫でることができました。
その子は人懐こい子でした。
でも、とても物音に敏感でした。
車の音。
人の足音。
ドアの音。
少し大きな音がすると驚いて逃げてしまいます。
その姿を見るたびに思いました。
この子は今までどんな生活をしてきたのだろう。
安心して眠れる場所はあったのだろうか。
怖い思いをしてこなかっただろうか。
そんなことを考えるようになりました。

見かけない日が気になるようになった
その頃になると、その子を見かけない日があると落ち着かなくなっていました。
今日は来ないな。
どこにいるんだろう。
何かあったんじゃないだろうか。
気付けば家の近くを探して歩くようになっていました。
たった数日前までは知らなかった猫です。
それなのに、見かけないだけで胸がざわざわする。
不思議な感覚でした。
そして、猫の方も変わっていきました。
私を見つけると、物陰から出てくるようになったのです。
まるで、
「今日も撫でてくれる?」
と言っているようでした。
その姿がかわいくて仕方ありませんでした。
庭へ来るようになった子猫
やがて、その子は庭へ遊びに来るようになりました。
家の周りで見かける時間も増えていきました。
でも大きな問題がありました。
家族の中に動物アレルギーが強い者がいたのです。
私も、
家へ入れてあげたい。
暖かい場所で眠らせてあげたい。
そう思っていました。
でも簡単にはできませんでした。
そんな中、冬が近づいてきました。
日に日に冷たくなる風。
夕方になると急に寒くなる空気。
小さな体で、この子は冬を越せるのだろうか。
私は毎日のように考えていました。

段ボールのおうち
家には入れられない。
でも何かしてあげたい。
そう思い、玄関の屋根がある場所に段ボールで小さなおうちを作りました。
本当に使ってくれるだろうか。
寒くないだろうか。
そんなことを考えながら作りました。
そして翌朝。
玄関を開けました。
正直、期待しないようにしていました。
せっかく作っても入ってくれないかもしれない。
そう思っていたのです。
でも、その子はそこにいました。
段ボールのおうちの中で。
小さな体を丸めて。
安心したような顔で眠っていたのです。
私はしばらくその場から動けませんでした。
胸がいっぱいになったからです。
外で生きるしかなかった小さな命が、
ほんの少しだけ安心して眠れている。
そう思うと涙が出そうになりました。

少しでも暖かくしてあげたくて
冬はさらに寒くなっていきました。
私は段ボールのおうちを少しずつ改良していきました。
透明の布をつけて風を防ぐ。
中にホッカイロを入れる。
少しでも寒さをしのげるように工夫する。
ご飯も。
お水も。
トイレも。
玄関の近くへ置くようになりました。
ふと玄関を見ると、その子は気持ちよさそうに眠っています。
安心した寝顔でした。
その寝顔を見るたびに思うようになりました。
家族になれたらいいな。
この子を守れたらいいな。

病院で知った過去
やがて避妊手術を受ける日が来ました。
病院へ預けた日。
手術前に病院から電話がありました。
先生はこう言いました。
「麻酔をして毛を剃ったら、手術の跡がありました。」
その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられました。
手術の跡。
つまり、この子には過去があったということです。
誰かと暮らしていた時間。
誰かが心配していた日々。
誰かがご飯をあげていた時間。
どんな事情だったのかは分かりません。
でも一つだけ分かることがありました。
この子を大切に思っていた人がいた。
愛していた人がいた。
その事実でした。
私はその時、強く思いました。
これからは私がお母さん代わりになろう。
この子を守ろう。
この子の人生の続きを、一緒に歩いていこう。
必ず幸せにしてあげよう。
少しずつ家の中へ
それから少しずつ家の中へ入るようになりました。
最初は短い時間だけ。
アレルギーがある家族もいたため、掃除をしながら慎重に進めました。
猫にも無理をさせない。
家族にも無理をさせない。
少しずつ。
本当に少しずつです。
すると、その子も少しずつ変わっていきました。
警戒していた目が優しくなりました。
安心して眠るようになりました。
家族の近くで過ごす時間が増えました。
そして気付けば、すっかりおうちの子になっていました。

今では家族です
今では膝の上に乗ってきます。
床でお腹を見せて眠ります。
名前を呼ぶと近くに来てくれます。
あの頃の警戒心いっぱいだった姿からは想像できません。
安心して眠る姿を見るたびに思います。
本当に良かった。
出会えて良かった。
アレルギーの症状も以前ほど出にくくなり、家族みんなで穏やかな毎日を過ごしています。
保護猫を迎えた最初の日は、幸せの始まりの日
夜になると、今でも思い出します。
あの冬の日のことを。
段ボールのおうちの中で眠っていた小さな茶トラの子猫のことを。
もしあの日出会わなかったら。
もし見て見ぬふりをしていたら。
もし声をかけなかったら。
この子はどうなっていたのだろう。
それは分かりません。
でも一つだけ確かなことがあります。
今、この子は安心して眠っています。
何の心配もないような顔をして。
無防備な姿で。
幸せそうに。
その姿を見るたびに思います。
幸せとは特別なことではないのだと。
暖かい場所があること。
お腹いっぱいご飯を食べられること。
安心して眠れること。
そして、
「大丈夫だよ」
と言ってくれる誰かがいること。
保護猫を迎えた最初の日。
それは私が猫を助けた日ではありませんでした。
むしろ私の方が、たくさんの幸せをもらう人生の始まりの日だったのかもしれません。




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